悪性中皮腫の症状は緩慢にあらわれた。

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登山仲間の御主人は長年アスベストを扱う仕事をしていた。
悪性中皮腫になるのは仕方ないと覚悟は出来ていたようだ。
じっさい仕事仲間も次々とガンで逝ったらしい。
悪性中皮腫の症状が顕著になり、入退院を繰り返した。
手術で肺の切除もした。
来年の桜は見られないと医者に言われた、というのが口癖だった。
それでも、根っからの山好きで、軽い登山は奥さんと一緒に来られた。
低山だが雪の山も登った。
わたし達は陰で、本当にガンなの?大げさじゃないのと、
疑問を投げかけるほど元気だった。
さくらの花も散ったころ、山は登らなくなったが、
車を運転して行く温泉旅行には良く出かけた。
初夏の頃から連絡が取れなくなった。晩秋の頃、死亡通知が届いた。
享年73歳だった。
あんまり元気だったから、一時は大げさにと、陰口を言ったことを後悔した。
悪性中皮腫は進行スピードが速く、治癒が難しいガンらしい。ガンのサイトでは、
腫瘍が胸膜に限定される早期でも、5年の生存率はおよそ1割以下で、多臓器に転移があった場合、1年の生存率はおよそ50%以下と書いてあった。
そんなガンなのに、医者の見立てより10ヶ月も長生きをして、最後まで、身奇麗に自分らしさを全うしていったのは、看護師の奥さんの力が大きい。
彼女はベテランの看護師だ。在宅で看病に全力を尽くした。
最後は入浴後、眠るように息を引き取ったという。
末期になったとき、抗がん剤による化学療法をではなくて、症状を緩和する対症療法(緩和ケア)を選んだのは、奥さんに寄せる信頼と年齢的なものが多いだろう。
彼は、ガンに負けない幸せな末期だった。

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